固形石けんは「何でできているか」知っていますか?
石けんはどうやって生まれたのか。石けんの発祥から辿っていき、原料や製法、石けんはなぜ「肌に優しい」と言われるのか。
石けんについて徹底解剖します!
石けんは何から作られているのか
石けんの発祥
石鹸の発祥は約1万年前にさかのぼります。人間は火を使うようになり、獣肉を焼いて食べることを始めました。
紀元前3000年、古代ローマの始め頃、サポー(Sapo)という丘の神殿がありました。その神殿では、獣肉を焼いたものをお供え物として供えていたといいます。
その獣肉を焼いている際に、獣肉からしたたり落ちた脂が木の灰に混ざり、それに反応した土が「汚れを落とす土」として発見されたのが、石けんのはじまりと言われています。
石鹸を英語で言うと「ソープ(soap)」と言いますが、この言葉の起源は、サポーの丘の名前から取ったといわれています。
天然素材だけを使った昔ながらの石けんは、その長い歴史が、人や環境へのやさしさを証明しています。
石けん素地とは
現在、私たちが使っている石けんは、昔の人々が使っていた「汚れを落とす土」ではなく、白くて長方形や丸みを帯びたの形をした、固形状のものです。
固形石けんのパッケージに書かれている「成分表示」を見たことがありますか?
石鹸が何からできているかの答えはパッケージに記載されています。
書いている成分表示を見てみると「石ケン素地」(せっけんそじ)と記載されています。
石鹸は「石ケン素地」という成分からできています。
他にも石けん素地以外の別名で記載されていることもあります。
・カリ石ケン素地
・脂肪酸ナトリウム
・脂肪酸カリウムなど
なぜ別名で記載されるのか?その理由を説明していきます。
石ケン素地とは?
“素地”とは手を加えていない、もともとの性質という意味です。
材料である天然油脂(=あぶら)をアルカリ剤の水酸化ナトリウム(苛性ソーダともいう)または水酸化カリウム(苛性カリともいう)で科学反応させたものを石けん素地といいます。
原料であるこの石けん素地に水を加えると「石けん」ができるのです。
もっと詳しく見ていくよー!
石ケン素地の原料
・脂肪酸
石けん素地は、天然油脂もしくは脂肪酸から作られています。
-
動物や植物から採れる油脂のこと。
- 動物性=牛脂
- 植物性=ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油など。
- 天然油脂を脂肪酸とグリセリン(保湿成分)に分け、「脂肪酸」だけをあらかじめ取り出したもの。
- 脂質を構成する重要な成分。
油脂の種類は沢山ありますが、石けんとして適している油脂は限られています。
成分表記の際は「石けん素地」とまとめて記載されていますが、素地内のすべてが同じ材料で作られているわけではありません。
アルカリ剤を使用することは同じですが、天然油脂は作られているメーカー、石鹸の種類によっても違う油脂が使用されています。
ドラッグストアには沢山の種類の石けんが販売されています。
用いた油脂の混合や割合によってさっぱり感やしっとり感、保湿効果の高さなどが変わってきます。色々な石けんは消費者の求めるニーズにより、より良いものへと選ばれたいくつかの天然油脂を混合し、徹底的に考え上げられた割合でできているのです。
こういった天然油脂をアルカリ剤と反応させ石けんは作られます。
素地を作るアルカリ剤とは?
石ケン素地を作るためには天然油脂をアルカリ剤と反応させることが必要です。
例えば、炭酸水を作るとします。
この3つの材料を決まった割合で混ぜれば、クエン酸と重曹の中の成分がお互いに反応し、水をプラスすることにより炭酸水ができてしまうのです。これと同じような原理です。
反応させるアルカリ剤は「苛性(かせい)ソーダ、苛性カリ」と言います。またこの2つは別名で呼ばれることもあります。
苛性カリ=水酸化カリウム
この2つのアルカリはアルカリ性が強すぎるため 「劇物」に指定されている危険なものですが、反応させ終わると「“脂肪酸”ナトリウムまたは“脂肪酸”カリウム」という別物に変化します。
その後熟成させることでアルカリ性の低い安全なものとなります。
反応させることで安全なものに変わるよ!
水酸化ナトリウムを用いれば脂肪酸ナトリウムに、水酸化カリウムを用いれば脂肪酸カリウムになるということです。
水酸化ナトリウム→脂肪酸ナトリウム
水酸化カリウム→脂肪酸カリウム
石けん素地は、アルカリ剤を反応させできた脂肪酸ナトリウムと同じ意味を持つということがわかります。カリ石けん素地というのは脂肪酸カリウムと同じ意味です。
簡潔に言えば石けん素地を化学的に言い換えた言葉が”脂肪酸ナトリウム”と”脂肪酸カリウム”です。
現在の薬機法(旧薬事法)では石けん素地と表示すればいいのですが、メーカーによっては化学名や原料名の詳細まで表示する場合もあります。
薬機法の成分表示 | 科学的な名前 |
---|---|
油脂+水酸化ナトリウム | |
油脂+水酸化カリウム | |
・カリ石けん素地を化学的に言うと脂肪酸カリウム
でもなんで2種類のアルカリを使うのかなぁ?
なぜナトリウムとカリウムの2種類のアルカリ剤を使用するのでしょうか?
固体石鹸と液体石鹸
なぜ2種類のアルカリ剤を使用するのかというとそれは、出来上がった石鹸が固体であるのか液体であるのかということです。
【固体になる】
- 固形石けん
- 粉状石けんなど
【液体になる】
- 液体石鹸
(例:洗顔料、ボディーソープなど)
水酸化ナトリウムで反応させれば固形石鹸などの固体状に。水酸化カリウムで反応させれば洗顔料やボディーソープなどの液体状の石鹸になります。
固形石けんを水に溶かしたものが液体石けん=✖
このことにより液体石鹸は「固形石鹸を水に溶かしたもの」ではなく、液体石鹸と固形石鹸は別物であるということがわかります。
固形石けんと液体石けんは別物!
石ケン素地の製法
石けん素地に使われている材料がわかったところで次はその製法について見ていきます。
「石ケン素地」の製法は主に2種類あります。
ケン化法と中和法
- 材料:天然油脂 昔ながらの石鹸の製法で釜炊き製法とも呼ばれる。釜に入れた油脂とアルカリをかくはんしながら加熱し、ケン化反応を起こして石鹸を作る。
- 材料:脂肪酸 あらかじめ油脂を分解し、得られた脂肪酸だけをアルカリと加熱、かくはんさせて反応(中和)させる。
天然油脂を用いた場合は、ケン化法と言い、脂肪酸を用いた場合は中和法と言います。
ケン化塩析法 | 中和法 |
---|---|
手作りに近い 天然のうるおい成分が残る製法のため、ツッパリ感がなく肌あたりがいい。機械化できない工程は職人さんが製造。 |
大量生産向け 洗浄後ツッパリ感が発生しやすいため、後の製造工程で保湿成分を添加することも多い。 |
原料 | |
製造時間 | |
約1週間~10日かかる | 短時間で大量に作れる |
反応 | |
ケン化 油脂+水酸化ナトリウム |
中和 脂肪酸+水酸化ナトリウム |
製造方法 | |
加熱、かくはんしながら反応(ケン化)させ、塩析を2回繰り返す。 | 加熱、かくはんさせて反応(中和)させる。 |
中和法で作られた石けんは、油脂の代わりに脂肪酸を用いるため、グリセリン(保湿成分)が含まれていません(あらかじめ油脂から脂肪酸だけを取り出しているため)。
そこで様々な保湿成分などが後から添加されることも多くあります。
一般的な石けんは大量生産向けの機械で簡単に作れる中和法である事が多いです。
「無添加石鹸」と呼ばれ販売されている石鹸は、時間をかけ職人さんによって作られたケン化製法であることが多いです。
ただし、大量生産するためには大きな設備が必要であったり、手間暇もかかるのでケン化法を使うメーカーは多くはないです。
ケン化法はもぐおすすめの
「牛乳石鹸、シャボン玉石けん」でも使われている製法だよ!
ケン化、中和法で出来上がったものを「ニートソープ(純度の高い石鹸水)」と言います。
このニートソープを真空乾燥機で乾燥させて水分を調整したものが石けん素地と呼ばれるものとなるのです。
中和法は脂肪酸を反応させることで簡単にニートソープを作れるのですが、ケン化法では塩析を行うことで、不純物のないニートソープを作っているのです。
塩析とは?
ここからはちょっと難しい科学的な話になります。
食塩は水に溶けると分解し、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)になります。
食塩+水=ナトリウムイオンと塩化物イオンになる。
ニートソープ(石鹸水)に食塩を加えると、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)はそれぞれ水分子(H2O)にくっつきます。
石鹸水+食塩=食塩の性質上水に溶け、食塩は水とくっつく(溶ける)。
石鹸は食塩に比べて水分子を引きつける能力が低いので、石鹸が保持している水分子を食塩に奪われていきます。
結果、石鹸の成分だけが残る
水分子を奪われた石鹸は水に溶けていられなくなるので、「固体」になっていきます。
この工程を同じように何度も繰り返していくと、石鹸に含まれる不純物が食塩によって回収されていき「純度の高い石鹸ができあがる」という仕組みになっています。
この塩析という手間のかかる作業を行うことで、天然の保湿成分の残る石鹸ができあがるというわけです。
【参考】水分子について
もうすぐ完成!
素地から石鹸へ
石けん素地を石鹸の形に冷やし固めていきます。「機械練り」と「枠練り」のという2つの方法に分けられます。
機械練り | 枠練り | |
作り方 | ニートソープを乾燥させ得られる 「石ケン素地」に機械を用い、香料や保湿成分などを均一に混ぜてつくる | ニートソープに香料や保湿成分を混ぜ枠に入れ固め、更に乾燥させてつくる |
性質 | 水によく溶け、泡立ちが良い。 やや溶けくずれしやすい。 | 水に溶けにくく、泡立ちがやや劣る。 溶けくずれしにくい。 |
色 | 白など | 透明石鹸 |
石鹸 | 一般的な洗顔石鹸 | 手作り石鹸や高級石鹸 |
私たちが良く目にする白い石鹸は、機械練りで作られた石鹸。透明の石鹸は枠練りという手間のかかる方法で作られた石鹸ということがわかります。
私たちが目にする一般的な石けんは機械練りで作られているということがわかります。
・製法は手作りのケン化法と機械で作る中和法
・ケン化法は塩析することで保湿成分の残る肌に優しい石鹸となる。
・白色の石鹸は機械練りで作られている。
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